2014年2月に映画館で観た映画は『エンダーのゲーム』『アメリカン・ハッスル』『ラッシュ/プライドと友情』『かぐや姫の物語』『新しき世界』の五本でした。以下、覚え書き。

『アメリカン・ハッスル』
 七十年代アメリカで、詐欺師とFBI捜査官が手を組んである計画を進める話。無茶なハゲ隠しヘアに、カーラーで巻いたアレンジヘア、黒人風ぐりぐりカーリーヘア、ふんわりリーゼント。ひとはだれもが髪型で他人(や自分)を欺いているのだ、と言いたげな登場人物たちの頭部を見ているだけで面白い。
  役者がみんな血の通った演技をしているところが良かったが、そのなかで唯一血を感じさせないデ・ニーロの恐ろしさ! 『ニューイヤーズ・イブ』の死んでいく入院患者のじいさんも『マラヴィータ』の間抜けなお父ちゃんもみんな幻だったんや!
 監督のジェニファー・ローレンス愛が強すぎるあまり、全体のバランスが悪くなっているのでは……と感じたが、力業でねじ伏せられて、最後にはこれはこれでいっかと思えるように。エミリー・アダムスを見ていたら、『ダウト』や『ザ・マスター』で共演していたフィリップ・シーモア・ホフマンを思い出し、切なくなった。ご冥福を。

『エンダーのゲーム』
 八十年代に書かれたSF小説の映画化。原作は短篇バージョン(短篇を膨らませた長篇バージョンもある)のみ既読(だけどぜんぜん憶えていなかった)。
 エンダー役のエイサ・バターフィールドの眉間にすべてがかかっている作品だった。苦悩によって常時しわが寄っている、幼さと老成が共存した少年の眉間を堪能する、そのための映画! ハリソン・フォードやベン・キングズレーはただの小道具! それにしても子どもの成長の早さにはびっくりさせられますね。つい最近のように感じる『ヒューゴの不思議な発明』のときはちびっこかったのに、いつのまにかひょろりと背が伸びていて……。
 エンダーがモノローグで"Dear Valentine"と姉に呼びかける箇所が、字幕ではすべて「姉さん」になっており、何度も高嶋弟の「姉さん事件です!」が頭をよぎった。そう意識してみると、しわのよった眉間が高嶋弟の困り眉に似ているような気が……やっぱりしない。
 ところで、CGが進化すればするほどいざ宇宙人が登場した場面で白けてしまうのは、私だけでしょうか。だからといって、『宇宙人東京に現わる』のパイラ星人みたいな着ぐるみ宇宙人がいいわけじゃないけど。

『ラッシュ/プライドと友情』
  実在のF1レーサー、ニキ・ラウダとジェームズ・ハントのライバル関係を描いた映画。減点ポイントがひとつも見あたらない、すみずみまで神経が行き届いた端正な作品だった。「フォーミュラってなんだべ?」レベルの自動車レースについて無知な私にも、説明的な台詞や場面をいっさい使わずにすんなり理解させてくれるていねいなつくり。
 この映画で描かれているラウダとハント、どっちに萌えるかっていったら断然ラウダでしょう! と思ったけれど、ハント派もけっこういるようで、ひとの好みはばらけるようにうまくできている。それにしてもこの邦題は、ふたりのあの絶妙な関係を陳腐化してしまっていてよろしくないのでは。

『かぐや姫の物語』
 公開から二か月以上経ってから重い腰を上げて観に行った。序盤は「アニメーションとしての快楽はあるけどこれが二時間以上続くのはしんどいかも……」と思っていたが、姫たちが都に引っ越したあとは感情を揺さぶられて苦しいほどだった。
 古典の『竹取物語』について、求婚者たちに無理難題を突きつけたあげく「迎えが来た」とかほざいて月に帰る、傲慢な女の話だという感想を持っていた(さらにアディーレ法律事務所のCMでは、「でも月からは遠いし……」と育ての親である翁と媼に借金の返済を押しつけて月に帰ろうとしている! ひどい!)。
 だがこの映画のかぐや姫は、「女の子の生きづらさ」を託されたことにより、現代的なヒロインとして血肉を得て、観る者の胸に迫ってくる。酔った男たちが下品な品定めをしているのを御簾ごしに聞いた姫が、貝合わせの貝をぱりんと割るシーン(あの疾走の凄まじさ!)からあとの約一時間、私はほとんどずっと泣いてしまった(余談だが、貝合わせの貝は対になっていてぴったりマッチングするのはひとつだけなので、女はただひとりの相手と添い遂げるべきなのだと女児に教える性教育的遊具でもある)。
 なんで八十近いじいさん(高畑監督のことね)がこういう感情を知っているのだろう、いまこれを描くべきだと思ってくれたのだろう、と泣きながらずっと驚いていた。まるで特別なギフトをもらったような映画体験だった。
 そして終盤、さんざん苦しんだ果てに頑なにこころを閉ざすようになった姫が、汚濁にまみれた世界での辛苦にこそ生の喜びがあるのだ、と気付く鮮やかな反転。こころを武装せずに素朴な欲望に身をまかせればよかったのだと悟ったのに、月からの迎え(=寿命)が来てしまうという残酷なシステム。
 当初同時公開を予定していた『風立ちぬ』のヒロイン菜穂子は、男が考える典型的な理想の女性像だと批判も上がった(私には菜穂子は「理想の女性」の皮をかぶった情念どろどろ系女に見えるけど)。孤独にフェミニズム的な闘いを続けるかぐや姫と、呪縛のような恋に命を投げ出し周囲に迷惑をかける菜穂子は、どちらもわがままヒロインだがベクトルがまったく違っていて比較対象として面白いので、やっぱり同時公開が良かったなあ。

『新しき世界』
 やくざモノ+潜入捜査官モノの韓国映画。フロント企業内で対立する貴乃花とアリキリ石井、主人公の松重豊(あるいは宮川一朗太)、後半に急浮上する小沢一郎。知らない韓国人俳優がスーツでずらずらと出てくるので、以上のように把握した。男の顔をぬめっと撮るカメラはエロくて、おっさんたちの抗争をやたら官能的に見せてくれた。女のおっぱいひとつ出てこない映画なのに、男たちの皮脂と汗と血と葛藤と愛憎だけで充分エロエロしい。ごちそうさまです!
 葬式、不起訴、満員のエレベーター、倉庫といった場面が後半にまったく違う状況で再登場するのが凝っていて良かった。なによりも二度めの倉庫シーンの、胃が痛くなるほどのハラハラ感!