8日の下北沢B&Bでのイベント「美澄の小部屋」vol.2にお越しくださったかたがた、ありがとうございました。私は声と喋りかたがどうにも不明瞭なのでお聞き苦しいところも多々あったと思いますが、あたたかいお客さんに恵まれて愉しく過ごすことができました。当日の内容や雰囲気につきましては、吉川トリコさんが文芸あねもねブログに報告記事を書いているので、そちらを見ていただければと思います。なお、チケット代にプラスして受け取った募金と出演者のギャランティは、日本赤十字社の東日本大震災義援金に寄付させていただきました。

 イベントの話の流れで窪美澄さんに「小説家になりたいと思ったのはいつ?」と訊ねられて、いままで取材などで何度も訊かれたことのある質問だったのにもかかわらず、忘れていたエピソードをふいに思い出しました。その場ではうまくまとめて話すことができなかったし、またすぐに忘れ去ってしまう可能性が大いにあるので、ここに書き留めておこうと思います(以下、ですます調はやめます)。

 ――中学二年のころだった。昆虫が詰まったかごのようなクラスのなかで、異質な雰囲気をまとっていた女の子に私は強く惹かれた。彼女は「ザ・瓶底眼鏡!」という感じの分厚い銀縁眼鏡をかけ、眉間に中学生らしからぬ険しいしわを寄せ、陰毛のように縮れた髪を長く伸ばしてきちきちとひっつめにしていた(ポニーテールではなくあえてひっつめ頭と呼びたいヘアスタイルだった)。休み時間にはこれ見よがしに本を読んでいた。やがて彼女は私と同じ茶道部に入り、そこそこ親しくなる。彼女は小説を書いていて(中世ヨーロッパ風ファンタジー小説や中国風ファンタジー小説だった)、それをときどき私やそのほかの友人に読ませてくれた。

 友だちとして好きだったのか恋心だったのか、当時もいまも不明だ(正直に言うと私は三十路のいまでも「人間的に好き」と恋愛感情との違いがよくわからない)。でも、とにかく私は過剰に彼女のことを好きだった。彼女にかまってほしくて、読んでいる本を取り上げたり接触したり、なにかとちょっかいを出した。そのせいで彼女に鬱陶しがられるようになる。「あんたのことがだいっきらい」と宣言されて、私の胸は昂奮に震えた。「今後一回でも私に話しかけたらぶつから!」とすごまれても懲りずににやにやと話しかけ、頬をぴしゃりとぶたれた。その痛みに私はますます燃え上がり、完全に彼女にまいってしまった。

 だが彼女は決定的に私を避けるようになり、小説を読ませてくれることもなくなった。やがてクラス替えで疎遠になり、部活にも顔を出さなくなり、話す機会もほぼなくなった。彼女に認めてもらいたい、彼女を見返してやりたい、という気持ちから私は小説を書こうと思いつき、その動機をずっと忘れていたにもかかわらず中二の病の結果として私はいまも小説を書いている。

 彼女は「薬剤師になりたい」と語っていた。市内で最も頭が悪いと言われていた中学のなかで中くらいの成績だった彼女が薬学部に行けたかどうかは不明だが、調剤薬局に行くと、たまに彼女を思い出して薬剤師さんの顔と髪質を確認する。