お菓子づくりというと家庭的で牧歌的なイメージがあるが、私がお菓子をつくるのはなんらかのストレスを感じているときである。会社員時代、終電間近に帰ってきて深夜に菓子を焼くという習慣を続けていた時期もあった。できるのはカロリーと糖質のかたまりなのに、なにかを成し遂げたような錯覚を覚えるのがみそだ。

 とくにストレスに効くのは、パウンドケーキのようなバター→砂糖→卵→粉と混ぜていくタイプの焼き菓子である。うまくやらないと卵を投入する段階で生地が分離してしまうので、とてもスリリングで高揚する。家族が寝ている時間に轟くハンドミキサーの音、キッチンに充満する暴力的な甘い香り。仕事のあとで集中力に欠けているのでうっかり順序を間違えて失敗することもあり、するとストレスが倍増するという諸刃の剣でもある。苛々しながらかき混ぜているさまは、ゆったり穏やかなお菓子づくりのイメージからはほど遠い。

 つくるのが目的なので、できたお菓子は少し摘まめば満足する。とくにパウンドケーキなどバター多めのリッチな焼き菓子は、つくるのは好きだが食べるのはそれほど好きじゃない。最近は自分好みの素朴な味のお菓子しかつくらなくなったけれど、それでも余ってしまう。実家暮らしのときは家族が消費してくれた。甘いものをたらふく食べることでストレス解消するタイプだが糖尿病の心配のないひとが、となりに住んでいたらいいのになあ、と思う。

「職場やママ友の集まりで手づくりのお菓子を配るひとって、なんかアピールしてるみたいで苦手、手づくりって気持ち悪いし」と嫌うひとも多いらしいが、深夜に「ちくしょう○○め! うああああうあああああ!!!」と感情をぶつけながら生地を練っているところを想像して許してやってほしい、と思ったけど、それじゃあよけい食べたくなくなるか。

 以下、最近つくったもの。
カヌレ1
 むかしブームになったらしいが、近年ではめったに見かけないカヌレ。外側はがっちがち、内部はねっちょり、という失敗ケーキにしか思えない食感が好き。レシピはこれ(かんたんだけど3日かかる!)の砂糖を50gほど減らしている。シリコンのミニバラ型で焼いたらまったくカヌレには見えず。

カヌレ2
 型を買って再チャレンジ。正しいカヌレは外側がもっと卑猥に黒光りしているものなので、今度は蜜蝋を用いるトラディショナルなレシピを試したいと思う。

クッキー焼成前
 スペキュロス(ベルギーのスパイスクッキー)、焼成前。レシピはこれの砂糖をヴェルジョワーズではなくきび砂糖にして、15gぐらい減らしている。クッキーはかんたんすぎて達成感に欠けるので、型抜きの工程で欲を満たす。

スペキュロス
 できあがり。砕いた飴を仕込んでステンドグラスクッキーにしてみたが、スパイスの風味とフルーツキャンディは激しく合わない。

スペキュロス
 食べれども食べれども減らず。