選挙が好きだ。エンタメとしての、祭りとしての選挙が好きだと公言しようとすると、「選挙や政治とは真剣に対峙するべきであり、面白がるものではない」という声が脳内で聞こえてきて躊躇を感じるが、都知事選を前日に控えていることだし、どう好きなのか説明したいと思う(けっこう長文になります、ご用心)。

 

 選挙は人間がおこなうもので、人間模様からは物語が生まれる。そして私は物語が好きだ。孤立無援で闘う泡沫候補も、大組織の複雑な力関係やしがらみの渦中にいる有力候補も、どちらにも面白みがある。

 

 エンタメとしての選挙、というとまっさきに思い浮かぶのは三島由紀夫の『宴のあと』だ。作品そのものよりも発表後のプライバシー裁判のほうが有名だが、シニカルで面白い選挙小説である。この小説からは「日本の選挙や政治なんてこんなもの」という諦観が垣間見えるのに、なぜ三島は思想に傾倒してあんな晩年になっちゃったのか……と口惜しく思うが、政治を信じていなかったからああいう行為に出たのだろう。
『からっ風野郎』(1960年公開の映画。主演三島由紀夫、ヒロインは若尾文子)の出演だとか、三島は自分が物語のなかに入りたかったひとなんだろうなと思うし、「自分がつくり上げた物語の主人公として死にたい」みたいな理想があったんだと勝手に理解している。主義主張には賛同できないが、あの悲惨で独りよがりな最期も含めて私は三島が好きだ。
 市ヶ谷の自衛隊駐屯地のバルコニーからクーデターを呼びかけたあのとき、かんじんの自衛隊員たちは昼どきで空腹だしヘリコプターのせいで三島がなにを喋ってるのか聞こえないし、早く終わってほしいと思っていたというエピソードも悲壮で切なくていい。

 

 テレビ東京の池上彰の選挙特番も選挙エンタメとしてすっかり定着した。私は投票日の夜は選挙速報を流しているすべての局をザッピングしながら見ているが、ついついテレ東を見ている時間が長くなってしまう。池上氏の番組のいちばんの見どころは当選した政治家や各党党首へのインタビューだろう。釣り針にぱくっと食いついてしまう政治家を見ると「器がちっちゃいなー」とがっかりするし、スマートにかわすさまを見ると「このひと、思ってたよりもクレバーなんだな」と評価が上がったりする。
 引っかけ問題みたいな意地の悪い質問は卑劣ですらあるが、選挙用のアルカイックスマイルが剥がれて素顔が垣間見えるのは単純に面白い。(池上氏は嫌われて憎まれることをみじんも恐れていないことがすごいと思う。私はたぶん死ぬまでその境地には辿り着けない)

 

 さて、今回の都知事選。都民ではない私(北海道民です)は「だれに投票しよう」と悩む必要がなく、さほど罪悪感を覚えずに楽しめる。(とはいえ、東京の決定は全国に波及するので、そんなに他人ごとではないのだけれど)。
 3人の主要候補で、物語的にいちばん面白みがあるのは小池百合子氏だろう(面白みがある=支持しているということでは必ずしもありません。って投票権がないんだからこんな予防線を張らなくてもいいのだけれど)。告示直前で折れ、涙ながらに支援者たちに出馬取りやめを伝えたという宇都宮氏のまっすぐさとつらい挫折にも私はすごくぐっとくるのだが(年齢的に今回がラストチャンスだったかもしれないのに!)、残念ながら候補ではないのでここでは除外する。

 

 先日、石原慎太郎氏が小池氏に対して「大年増の厚化粧」と言って物議を醸した。これはうんざりするような旧時代的な性差別発言だが、私は彼女をテレビで見るたび「ユリコ、人相悪くなったなあ……」と思っていた。人相とは不思議なもので、生活や思考がすぐに人相に表出してしまうひともいれば、どんなに乱れた私生活を送っていてもつるりとした顔つきのまま、というひともいる。

 小池氏の人相が悪くなったのは、おそらく都議会のドンを自分の敵と定めたためだろう(都議会のドンがどういう人物なのかという話は、いま私が喋りたいことではないので知らなかったらググってください)。鬼を倒すには自分が鬼になるしかないということなのだろうか。彼女の思想や政策や手腕などはさておき、元「芦屋のお嬢さま」が鬼を倒すために鬼になる女戦士というのはぞくぞくする。

 

 小池氏の物語で良い味を出している登場人物といえば、若狭議員だ。小池氏を支援したら除名を含めた処分をすると言って締めつけようとする自民党都連に「除名できるなら除名してみろ」と反旗をひるがえした、元東京地検特捜部の衆議院議員である。
 彼は小池氏の応援演説で「すごい惹きつけられている」と恋の告白じみたことを言い、「全然、(恋愛などの)問題ではないですよ」と照れ笑いし、「百合子、百合子って数え切れないくら言ってる。こんなに女性を呼び捨てにできることはうれしいことなんですが、選挙後は小池都知事と呼びたい」と浮かれている。
 この蜜月感。アドレナリン出まくってる感。私はひととひとが親密になり蜜月を迎えるがやがて憎しみが生まれ殺しあいに発展する、みたいな物語が大好物なのだが(『仁義なき戦い』みたいなことです)、こんなに愛がスパークするところを見せつけられると、すごく勝手ながらその後の破局といがみあいに期待してしまう。

 

 主要3候補ばかり取り上げられがちな都知事選だが、私は選挙の真の主役は泡沫候補だと思っている。おそらく戻ってこないであろう供託金300万を払って世に訴えたいことがあるひとたちだ。なんてピュアなんだろう(ただの目立ちたがり屋もいるかもしれないが)。今回は18人も出ているのでありがたい。
 なかには眉をひそめたくなるようなことを言っている候補もいるが、それでも全体を見ていると「世のなかにはこんなにさまざまな考えのひとがいるんだなあ」と嬉しくなる。思想は十人十色であるべきなのだ。多様性を持たない生物は滅びる。

 

「私の公約はただひとつ。『NHKをぶっ壊す!』でございます」とNHKの政見放送で笑顔で言い切った立花孝志氏(NHKから国民を守る党)がキャッチーさでは一段上だが、武井直子氏の「天皇制を廃止し、今上陛下を初代大統領に」という政策には度肝を抜かれた。廃止論者はめずらしくないが、そこから「大統領に」という飛躍は超アクロバティックだ。どこにでもいる近所のおばちゃんっていう雰囲気の女性が、こんな斬新な思想を持っているということに驚かされる。毎朝ゴミ捨てのときに挨拶を交わす名前も知らないおばちゃんって感じなのに!

 

 すっかり泡沫候補界の有名人となったマック赤坂にも触れたい。『映画「立候補」』(マック赤坂をはじめとする泡沫候補を取り上げたドキュメンタリー映画)で、紙パックの日本酒をちゅ〜〜っと呑み干してから街頭に立ち選挙活動をする場面を見て以来、私には彼がなんだか格好良い存在に見えてきている。ひとには理解されずあざ笑われる行為を、素面ではできないのに高額の供託金を払って続けている孤高の人物。ひとによってはただのアル中ジジイじゃないかと思うだろうけど。
 マック赤坂は以前から「同じ供託金を払っているのになぜ一部の候補だけを大きく報道するのか」というようなことを訴えてきた(そもそも供託金は、金銭事情に関係なく出馬できるようにもっと安くするべきだと思う)。数日前、「報道ステーション」で泡沫候補18人の選挙活動をVTRで紹介し、増田氏・小池氏・鳥越氏を「このほかご覧の3人が立候補しています」と省略しているのを見て、奇矯なひとの意見であっても、訴え続けていればやがて届くのだとちょっと感動してしまった。「とりあえず紹介はしときましたからね」みたいなアリバイづくり的扱いではあったけれど。

 

 アドレナリン全開で選挙活動をしている候補者を見ると、あまりに楽しそうで、議会制民主主義の国に生まれたからにはいちどは出馬してみたい! とうっかり思ってしまう(すぐに冷静になるが)。政治家はみんな、選挙が好きなんだろうなと思う。お金がかかるし体力的にハードだろうけど、それでも。

 

 選挙が近くなると必ず「選挙に行こう!」と訴えるひとがわらわら湧いてくる。選挙権が18歳以上になってからは「若者よ、選挙へ」みたいな話がいままで以上に語られている。だが、頭ごなしに言われて「そうか、行かなきゃ!」と素直に受け止めるならそれは若者じゃないし、「政治に参加することの意義」みたいな正論で説得されるようなひとはすでに選挙に行っている。それよりは、「選挙ってじつは楽しいんです」ということを語るほうが効果があるんじゃないか。良識のあるひとからは不謹慎に見えようとも。

 

 私は、投票とはパーティのビンゴカードみたいなものだと思っている。なくてもパーティじたいは楽しめるだろうけど、カードを入手して参加したほうがより楽しい。世のなかには愉快なパーティよりもつまらないパーティのほうが圧倒的に多いけど、それはさておいといて。

 新刊『フィッターXの異常な愛情』発売になっています。小学館より税込1,620円です。
フィッターXの異常な愛情
 これは去年「きらら」という雑誌で連載していたものを大幅に加筆修正したもので、編集者さんに「お仕事小説やラブコメを書いてみませんか?」と提案されたのがそもそもの書くきっかけでした。その結果、32歳の広告業界で働く営業職の女性と、男性のランジェリーフィッターと、その周囲の困った人びとが繰り広げる、ポップでカラフルな小説に仕上がりました。いままで私が出した本のなかではいちばん読みやすく、くだけた雰囲気になっているかと思います。新生活の息抜きに、お手に取っていただけるととても嬉しいです。
 レースやスパンコールで描いた美麗な装画は長谷川洋子さん、装丁は鈴木久美さん、帯のコメントは『アラサーちゃん』でお馴染みの峰なゆかさんです。

 一部の書店には手書きのPOPをお送りしていますので、店頭でお見かけの際はよろしくお願いいたします。汚い字でたいへん恐縮ですが……。
手書きPOP

 あと、いくつかウェブの記事の取材も受けさせていただきました。

話題の新刊『フィッターXの異常な愛情』に学ぶ、枯れ気味女子が幸せになるためのカギとは!?
もし昔の恋人の結婚式に呼ばれたら…話題の新刊『フィッターXの異常な愛情』の心理描写に学べ!
作家・蛭田亜紗子のブラ総論!「みんな寄せて上げたいワケじゃない」

 インタビュー記事って当人としては素面で読むことができないというか、心臓がぎゅぎゅっと痛くなって寿命が7か月(3本で合計21か月)ぐらい縮みそうな感じですが、ものすごくお手すきのときにでも読んでいただけますとさいわいです。

 あとまったく関係ないのですが、私はなぜか最近カクテルづくりにはまっており、つくったカクテルをひたすらアップするだけのブログもはじめたので、酒類を混ぜたり振ったりすることに興味があるかたは覗いてみてください。→振る呑む記す

読楽4月号
 いま店頭で売られている徳間書店の文芸誌「読楽」2015年4月号に、「フードコートのフラニーとゾーイー」という短編小説を書きました。三十代半ばの双子の兄妹が主人公で、地方都市にとどまり結婚した兄と、東京に出たものの行き詰まっている妹、それぞれの物語を描いています。書店でお見かけの際はどうぞよろしくお願いします。タイトルに入っている小説のファンには怒られるかもしれませんが……。
 ちなみにフードコートのモデルは近所のイ○ンです。
読楽4月号

 それと、昨年「きらら」で連載していた小説を改題した『フィッターXの異常な愛情』も、4月1日エイプリルフールに小学館より発売予定です。タイトルだけでなく中身もけっこう変えてあるので(おもに終盤を)、連載で読んだくださったかたもまた読んでいただけると嬉しいです。発売されたらまたしつこく紹介します。
フィッターXの異常な愛情
 装丁はこんな感じでできあがりつつあります!